動線と店舗デザイン

眺めるだけではなくそこで活動することも考えましょう。

店舗の中では従業員もお客さんもみんなが座っているわけではありません。 快適な空間にするためには動線も考慮して店舗設計をしなければならず、それができていなようだと落ち着かず息苦しいスペースになってしまい、 長居したくもないし、また来たいとも思われないショップになってしまうからです。 ド派手なインパクトを与えるオブジェが店内にいくつも設置されていれば、お店を初めて訪れた人は目を見張って立ち尽くし感動してくれるかもしれません。 ですがその効果は長続きせず、一週間も通い続けると全く気にならなくなりますし、「通路にこんなのがあると邪魔なんだよなぁ」と撤去したらどうかと 店員さんに持ちかけるようになるかもしれません。 初めて出会った時こそ大きな衝撃を覚えて携帯で写メを撮ったりして大はしゃぎをするのですが、慣れてしまうとデザイン的な要素よりも他の事を重要視するように 人の心は変化してしまうのです。 写真を撮影したり数歩離れて眺めるだけならデザインが優れているほうがいいのかもしれませんが、その空間で自分がいくらかの時間を過ごすのであれば 快適であることが一番大切になってくるのです。

エクステリアとインテリアイメージ 例えばそこが映画館なら、値の張りそうなインテリアを1メートルおきに設置しても観客はあまり喜んではくれません。 お金をかけているかもしれないし優雅な雰囲気を創り出してくれるので一定の評価は得られるでしょうが、 上映が始まれば館内は真っ暗になるのでどんなに立派な絵画や壺を質屋で購入して飾り立てていても、 上映後と上映前のわずかな時間しか来場者は見つめてはくれないのです。 そしてそのわずかな時間はポップコーンやドリンクを買いに行くこと、トイレで用を済ませることに費やされるので、 映画館にやってくる人の中で調度品をじっくり観察してくれるのはほんの一握りでしかないのです。 なのでその部分に費用をかけてもオーナーの自己満足にしかならず、お客さんからのよい反応はそれほどないと考えられるでしょう。 これは店舗デザインとしては失敗に近く、費用対効果も期待できません。 この場合の正しい店舗デザインとは、観客が上映時間の間映画を鑑賞しやすい環境を提供することであり、リサイクルショップや骨董品屋さんで購入した お人形やフィギュアを飾ることではないのです。 ある程度は雰囲気作りのために必要かもしれませんが、まず優先させるべきは快適に映画を観てもらうための環境になります。 それは座り心地の良いイスであったり、途中でトイレに行く人がいても困らない広さの通路であったり、破れていないきれいなスクリーンなどです。 真っ赤な絨毯を敷詰めて天井からシャンデリアを吊るすよりも、2時間ないし3時間座っていてもお尻が痛くならないフカフカのイスを用意したほうが 観客はその映画館を「いいね」と認めてくれるでしょう。 逆に王宮のような建物で貴族の気分を味わわせてくれる素敵な映画館でも、イスがコンクリートのベンチみたいに座り心地が悪ければ 「あそこは映画が終わるまで席についていられないよ、椅子がめちゃくちゃ硬いんだ」と悪評が広まってしまい、リピーターもこなければ 新規のお客さんもごくわずかで閉館待ったなしです。 また座席の間隔が狭くて着席までの移動やトイレへの移動が不便でも、お客さんを獲得するには不利になってしまいます。 ガイドブックに紹介してもらうための写真では見た目の良い店舗デザインほど有利となるでしょうが、実際にそこにやってきた人にとって大切なのは 動線も考えられた快適な空間であることなのです。 もちろん客さんだけのことではなくそこで働く従業員が気分良く勤務できることも必須であり、そうしたことも計算された店舗デザインなら サービスを提供される側もする側も最高のテンションで同じ時間と空間を共有できるでしょう。