外部環境と店舗デザイン

そのショップだけで完結させる店舗設計ではいけない。

初めて新規出店する場合ですと、どこに自分の城を構えるかを決める前からどんな店舗デザインにするのかを心の中で考え抜いているでしょう。 長ければ5年、10年以上も「こんなお店にしたいな」という理想のショップを考えてきたのでしょうし、ずっと夢見ていた形にしたいと努力するのです。 ですがどこに出店するかによって理想の店舗デザインは違いますので、若かりし頃から頭の中で思い描いていた自分だけのお店を実現させるのに 立地を全く考慮しないというのは、ちょっと乱暴な発想になってしまうのです。 それ単体で見れば完璧に思えるお店でも、出店する場所とマッチしていなければ場違いな空気に包まれて違和感のある不可思議なショップになることも 充分に考えられるのでそこにも注意しなければなりません。

誰でも気さくに入れるカジュアルな雰囲気でありつつ、そこそこのオシャレさも持ち合わせた美容院をオープンさせたとしましょう。 ですがそこは立地的には飲食店に囲まれており、なおかつ中年男性の集まりやすい立ち飲み屋や居酒屋ばかりのエリアであったらどうでしょうか。 お店の前を通るのは脂の乗り切ったおじさんばかりで、誰もその美容院を見向きもせずにスルーすることになるはずです。 そして年季の入った屋台やアルコールを提供するお店に囲まれている美容院は「なんでこんな店がここにあるんだ?」と不審な目で見られるだけなのです。 別にどこにオープンしようが経営者の勝手なのですが、あまりの場違いなお店があったら悪い意味で注目され、敬遠されることになります。 その美容院を目当てにやってくる人もいるでしょうが周囲の様子を見てどう思うか、それは「うわぁ、ここはなんだか髪をセットしてもらうための土地にはみえないな。 ギャルの姿もマダムの姿も皆無だし選択をミスったかも、やっぱり引き返そう」とせっかく近くまで来てもらえても逃げられる場合もあるでしょう。 これがまだ周囲の風景にマッチしていればそこまで拒否反応を示されない可能性もあるのですが、完全に浮いてしまっていたら 入り口の前に行くことすら憚られるので顧客を獲得するのは一層難しくなります。 内装も外装も誰もが認めるほど素晴らしい完成度だとしても、町の風景とのズレがあったらそれは最高の店舗デザインとはなりません。 なので幾年も温めてきたアイデアがあったとしても立地に合わせてアレンジすることを忘れてはならず、それが出来なければクチコミで良い噂の流れるような 評判のお店には決してなれないでしょう。 またこれは外観だけのお話ではなく、機能的な設計にも言えることです。 そこが飛行場のそばで騒音が凄かったり、踏み切りが店の前にありしょっちゅうカンカン鳴るようならその対策をするのも店舗デザイン、店舗設計の役割です。 静寂な住宅街なら不必要な防音対策をしなくても済みますが、賑やかな繁華街やトラックの往来が激しい道路の近くに出店する場合、 店内のお客さんや従業員が苦にならないよう防音しないといけません。 よほどひどくなければ注文を受けたり伝達するのに支障はないかもしれませんが、決して落ち着ける空間とは呼べないからです。 他にも焼肉屋さんやニンニクたっぷりのラーメン屋が隣接する場所にお店を出す場合には臭い対策をすることになるでしょう。 どんなにおいしい紅茶が飲める喫茶店でも、ニンニク臭が漂ってきたらティータイムの質は下がってしまうのでお客さんもガッカリです。 どんなに計算されていてお客さんを満足させるアイデアが満載のショップでも、周囲の環境を無視した店舗デザインでは結果は伴いません。 そのお店の右隣には何があるか、天候によって不自由する要因はないか、お客さんがスムーズに来店することができるか、 そうしたことも考慮した設計でなければ満点を獲得することはできないのです。